皆さんご存じでしょうか。
歯は治療をしても治ってはいません。
「え?」と思われたと思いますが、本当です。
では、早速本題へ。
歴史的にはむし歯はかなり最近の問題
考古学の資料では、むし歯を見つけることはほとんどなく、1900年代になってむし歯が急増したのです。むし歯は糖類摂取の常習化によって起こった「贅沢病」です。
虫歯治療の認識の違い
むし歯の治療と言えば、「穴を埋めること」だと思っていませんか。ほとんどのみなさんが穴を埋めることを治療とみなしているようです。しかし、穴を埋めたからといって「疾患としてのむし歯は自然に消えません」。
感染症と思っていただくとわかりやすいと思います。細菌感染症ですね。
実は文献的に「修復だけを行っていたら、まもなく再治療の時がやってくる」ということが示されています。
これは、歯科医療者であればあたりまえではあるのですが、一般にはそうではないんですね。予防を始めるということは、私たちと一緒にこういう知識も勉強することでもあるんです。実は予防を広めてゆくと言うことは予防ケアの方法だけではなく、知識も広めてゆくことなのです。
「歯科医師の労働時間の90%以上が以前に行われた治療の再治療に費やされる」というのが現在の日本の現状です。歯科医師は再発したむし歯を修復し続けるのが仕事になっています。
むし歯を科学する
そもそも虫歯の原因は何なのでしょうか?
実はいろんな要素が組み合わさったときに歯に穴が空きます。
細菌 食生活 宿主 + 時間
宿主とは、皆さんのことです。図で表すと、
上記のようになります。3つの原因因子が重なり合い、そこにに時間が加わることで虫歯が発生するわけです。
これだけだと何のことかよくわからないと思いますので、これを詳しくむし歯に至るまでのプロセスにして図で表します。
細菌
まず、そもそも細菌の存在があります。代表的な細菌は有名なミュータンス菌です。もう一種類ラクトバチラス菌があります。
- ミュータンス菌は近年話題にあがることが多いので、ご存じの方も多いと思います。ミュータンスレンサ球菌は、主にご両親の唾液を介して、赤ちゃん・幼児へと細菌感染します。同じスプーンや箸、ストロー、食器、また食物を口移しで与えるなどがきっかけです。感染時期は、生後19~33ヵ月(平均2歳2ヵ月)です。
- 一方のラクトバチラス菌。こちらは乳酸菌の一種で、実は食べ物に入っています。炭水化物や砂糖に含まれ、多く含まれるのは乳酸菌飲料です。
ミュータンス菌は細菌話題になることが多いので、口移しなどをかなり注意しているご両親も増えてきています。ところがラクトバチラス菌を知っている方はほとんどいないと思います。実はそれぞれむし歯への関わり方が違います。
- ミュータンスレンサ球菌:最初に歯を溶かしてむし歯を作る
- ラクトバチラス菌 :むし歯を進行させ、悪化させる
むし歯経験がない方にとってはラクトバチラス菌はあまり意識する必要はありません。しかし、一度でもむし歯を経験したことがあるなら、むし歯を再発させ、進行させる菌ですので要注意です。
ミュータンス菌・ラクトバチラス菌がいるかどうかが簡単にわかる方法
食物
簡単にいうと糖類のことです。発酵性炭水化物とも言います。
別の言い方だと、スクロース(上白糖の97.8%、三温糖の96.4%、白ザラ糖の99.9%、グラニュー糖の99.9%、黒砂糖(黒糖)のが80%)です。スナック菓子などの加工デンプン製品、ポテトフライ・ポテトチップスが代表的な例ですがスクロースとほぼ同じくらい危険です。
口腔内の大惨事
先ほどの細菌と食物が出会うとどういったことが起こるか。糖類のような発酵性炭水化物を細菌が分解することで、「酸」(乳酸)が生まれます。この酸が、歯の中の無機質を溶解してゆきます。なぜ、糖を分解するのか。
むし歯原細菌はお口の中の糖レベルの急上昇に対応できる強力な細菌です。糖類をすばやく酸に分解することで対応しているのです。
糖は保存料として使用されてきました。昔からの知恵ですね。高濃度の糖の中で細菌は死んでしまいます。
糖類と酸の組み合わせで他の細菌が死んでしまうと、酸を産生するむし歯原細菌がますます急増し、さらにどんどん酸が産生され続けます。むし歯原細菌(耐酸性細菌)の独断場です。
こうして、人体で最も硬い組織である歯はどんどん「脱灰」します。脱灰とはスポンジ状に穴があいたりして、ざらざらになってゆくイメージですね。
唾液
その酸に傾いたお口の中を唾液分泌が防御力となり、中和させ対抗します。逆に薬の副作用やシェーグレン症候群などで唾液の量が少ないと中和力が弱いので、お口の中は日常的にわずかに酸性に傾きます。
フッ化物
フッ素(実際はフッ化物イオン F⁻)は最も効果的な化学物質です。1960年代に欧米諸国で起こったむし歯罹患率減少の主な理由は、フッ化物配合歯磨剤の利用です。フッ素には賛否両論あったりするのですが、市販の歯磨剤に含まれるような超低濃度では効果がかなり薄いです。0.15%が欧米では推奨されており、日本でもこの春よりようやく歯科医院専売の歯磨剤の濃度が0.145%になったところです。ですので、かかりつけの歯科医院で歯磨剤を購入することを検討してみてはいかがでしょうか。
唾液とフッ化物が対抗
唾液とフッ化物が対抗することでようやく、大惨事となったお口の中を中和させ、歯を「再石灰化」させます。
脱灰 ー 再石灰化
こうしてお口の中は、むし歯原細菌=酸産生細菌が30分〜1時間ほとんど独占する状態になり酸性状態になります
このpHと時間の関係を描いたグラフをステファンカーブといいます。
お口の中はほぼ中性の6.8であり、pH5.5を切ると最も硬いエナメル質が脱灰します。歯の根が出ている場合はもっと弱くpH6.3から脱灰します。
ここでよく思い出してほしいのは、みなさんはどのくらいの頻度で糖類やお菓子(発酵性炭水化物)を摂取していますか。ということです。つまり酸性になっている時間の長さです。あなたの大切な歯が酸にさらされている時間が長ければ長いほど脱灰が進み、歯に穴が空いてゆくからです。
Aさんのような生活をしていれば、むし歯のリスクは低いでしょう。しかし、Bさんのような生活をしているのであれば、むし歯はハイリスクです。まもなく歯に穴が空くことでしょう。
酸性 + 砂糖 の組み合わせは最悪
砂糖や糖類を避けたとしても、酸性の飲食物はすべてリスクが上がってしまうとお考えください。酸で歯が脱灰してしまいます。
酸蝕症
酸性の柑橘系(レモン・グレープフルーツ)・酢・清涼飲料水・スポーツドリンク・ワインなどの酸性の飲食物過剰摂取が原因となる酸蝕症というものがあります。むし歯と同じ原理です。
酸性 + 大量の糖類 というドリンク類は、むし歯のリスクとしては最悪レベルです。お口の中を酸性にして耐酸性菌を増やしながらさらに細菌たちに糖類というエサを与えて積極的にむし歯にしているようなものです。
まとめ
- むし歯が「贅沢病」と言われるのは、簡単に飲食物が手に入るようになったから
-
細菌 食生活 宿主 + 時間
これらの原因を「治療」しないことには、むし歯はずっと繰り返す - 酸と砂糖の組み合わせは最悪
- 糖類の毎日摂取は、むし歯だけではなく慢性疾患、肥満など全身にも危険を及ぼす
- WHO(世界保健機関)「成人の1日あたりの砂糖摂取量は25g程度までが望ましい」
- 日本人の砂糖摂取量は平均69g。角砂糖1個は3~4g

下北沢せきにし歯科医院
世田谷区代田の下北沢駅1分の歯科医院。
予防チームは歯科衛生士が一台ずつトリートメントユニットを担当し、患者さんそれぞれのリスクを認識し、おひとりあたり1時間かけてオーダーメードの予防プログラムを実践しています。