リスク部位とプロフェッショナルケアについて
3ヶ月に一回クリーニングするだけでは歯周病・むし歯を予防できないことをご理解いただけたでしょうか。
割合にすると正式には、
セルフケア7割、プロフェッショナルケア3割
の比率で重要で、歯を守ることができると言われています。
じゃあ、
「きちんとセルフケアできてるのに歯科医院で何やるの?」
って思う方がいらっしゃるかと思います。
現実的には、プラーク(細菌)を毎日80%セルフケアで取りきったら、むし歯も歯周病も進行しづらくなります。治療も予防も80%ご自身で取れることが最優先です。
90%でも良いのですが、最低80%というボーダーラインをクリアした上で歯科医療が成立します。それが満たされていない状態で治療すれば、菌にまみれたままの治療になりますので、のちのち確実にやり直すことになります。また予防も成立しなくなり、一人ひとり異なる、リスクの高い場所から順に悪化が始まるわけです。
いつも磨けていても、残りの数%〜20%はずっと同じ場所につき続けている可能性が高いのです。
ですのでプロフェッショナルケアでやることを簡単に言いますと、
- 予防計画書の作成(これまでの治療歴も非常に大事)
- リスク部位の特定のための各種検査
- リスク部位を中心としたセルフケアトレーニング
- 機械的除菌=PMTC(いわゆるプロフェッショナルケア)
- 化学的除菌 (お口の粘膜上にも細菌がいます)
簡単に言いますと、リスクを特定しリスクを中心にケアを徹底的に行い、再度の細菌の付着を遅らせるようにするのです。
PMTCの予防効果
患者自身による口腔清掃のあと、歯ー歯肉部に認識できる複合プラークの再形成は約1-2日
PMTCのあとでは、通常それより5-6日間延長される
PMTCでは全ての歯面の歯肉縁上プラークと歯肉縁下3㎜までの縁下プラークを完全に除去すべきである
つまり、PMTCは歯肉プラークコントロールを含む
また、頻回なPMTCは、歯肉縁下細菌叢の組成に影響を与え、歯周病原菌の数を減らす
(Dahlénら 1996、Hellströmら 1996、Katsanoulas1992、 McNabbら 1992、SiegristとKornman 1982、Smulowら 1983、Ximénez-Fyvieら 2000)
歯肉縁下根面のインスツルメンテーションを行った後、頻回なPMTCにより歯肉縁下細菌叢の再コロニー化を防ぐことができる
(Magnussonら 1984、Mousquésら 1980)
大臼歯隣接面といった歯ブラシで到達できないところにあるstreptococcus mutansのようなう蝕原性細菌にもある程度の効果が期待できる
(Axelssonら 1987b)
歯の間が最もリスクが高い
PMTCとは、スウェーデンのDrアクセルソンが提唱したもので、Professional Mechanical Tooth Cleaningの略です。 経験豊富な歯科衛生士が専用のEVAチップ、ラバーカップやブラシなどさまざまな機械を使い、歯の隅々まで徹底的に磨き普段の歯磨きでは絶対に取りきれない細菌(バイオフィルム)を落とし、つるつるとしたエナメル質本来の感触にしてゆきます。
歯についたむし歯原菌や歯周病原菌は歯の表面で増殖し、このバイオフィルムを作ります。バイオフィルムの特徴は、歯ブラシでは取り除くことが困難で、抗生物質や洗口剤は効果がありません。
このバイオフィルムとは細菌の塊です。 家庭のお風呂のパイプや三角コーナーに見られるヌルヌル、あれが身近なバイオフィルムの例です。あなたの口の中の歯垢(プラーク)も、細菌の種類は違いますが同じバイオフィルムです。
この厄介なバイオフィルムを安全かつ効果的に除去するのが、PMTCですね。
PMTC最大のメリットは、歯の隙間や歯周ポケットまで徹底的にケアを行っていくために虫歯や歯周病の予防ができることです。
Drアクセルソンが調査した結果、PMTCを受けていた患者層は30年後でも自分の歯の97.7%を保持していたのです。定期的なPMTCのようなメインテナンスがない日本では75~84歳で35%、85歳以上では51%もの方が歯が一本もない状態です。
普段歯石を取りに行っているという方も多いかと思いますが、全く違うことを目的としていることがご理解いただけたのではないでしょうか。
要するにPMTCとは、付着繁殖している細菌だけを除去し、歯の表面を本来のつるつるした状態にすることです。毎回、超音波スケーラーで歯石をとることではありません。歯石自体には害はないんですね。表面がザラザラな、細菌が繁殖するための足場となる歯石だけを歯面を傷つけないようにとるのが正しい方法であり、何よりも歯石がつかないようにセルフケアを実施していただくことが大切であり、どうしてもついてしまったところをピンポイントでとるのです。そもそもついていることが問題なわけですね。歯科医院で歯石をとっても次から次へと新たに細菌が増殖し、繁殖し、歯石ができてきます。それではイタチごっこどころか歯周病は進行してしまいます。他院で歯石を除去したにもかかわらず、重度の歯周炎で手遅れの状態だった歯です。
根の先端、根の股の部分まで歯石を足場とした細菌が回り込んだら手遅れです。
また、よく使用される超音波スケーラーは金属にも大きな傷をつけるパワーがあり、リスクも大きく、拡大鏡(ルーペ)を利用し歯石だけにチップを当てるか、手用のハンドスケーラーで歯石だけを除去し、歯面に影響を与えないようにすることが大切です。やみくもに使用することで、
- 傷ついた歯牙表面は着色や細菌の付着因子となります。
- 歯周組織の再生に最も重要な薄い歯牙表面のセメント質を破壊します。
- 露出した象牙質(象牙細管)は知覚過敏を引き起こすことがあります。
- 象牙質(象牙細管)からの歯髄(神経)への細菌の侵入をもたらし、神経への感染損傷をもたらすこともあります。
Drアクセルソンの長期的研究から、一番細菌が付着しやすいリスク部位は、奥歯の歯の間であり、歯間部清掃用チップであるEVAチップの使用が現時点では最善であることは間違いありません。
EVAチップについて
このイラストは、前歯を横から見たものです。ごらんのように歯の間は、実は歯の表面(唇側・口蓋側)に匹敵するほどの面積がありますよね。
色でいうと、ピンクやオレンジ色の部分が歯ブラシだけでは届かない場所ですね。
特にピンク色の部分は、歯周病が始まる場所であり、虫歯が始まる場所です。
実は、この部分を機械を使ってつるつるにしてくれるところは多くはありません。
表面、裏面(水色)は実はリスクが最も少ない場所です。多くの歯科医院で行っている機械では、清掃・除菌・つるつるにできるのは表面だけです。
歯間部だけでなく、歯肉の中1〜3ミリまで清掃・除菌・つるつるにできる清掃器具。ピンク色の部分を徹底的にきれいにしてくれます。
Drアクセルソンが提唱した、本来のいわゆる97.7%の歯を守る「本当のPMTC」では、このチップの使用を明記しています。このチップを使用すると明らかにフロス(いわゆる糸ようじ)を通すときの感触が違います。細菌(プラーク)の付き方が変わってきます。
EVAチップは使用にかなりのテクニックを要するので、使える経験豊富な歯科医師、歯科衛生士の数も限られるでしょう。

下北沢せきにし歯科医院
世田谷区代田の下北沢駅1分の歯科医院。
予防チームは歯科衛生士が一台ずつトリートメントユニットを担当し、患者さんそれぞれのリスクを認識し、おひとりあたり1時間かけてオーダーメードの予防プログラムを実践しています。